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第一五章

<K.G 作>
〜宿命的出逢い〜




僕は、タルキとブルツーナの境界線である前線基地ブリランテに着いた。ここは度重なる戦争でいつもその
境界線が変化し、現在はこの基地の5km先が境界線になっている。そして、僕とニッキー、それにグリー
さん、ブリュワーズさん、ゴンボースさん以下トラック6台分のぺスカの人々がこのブリランテに到着した。
「おい、何だ?こんなにものトラックが何しに来た?」
基地の門で僕たちは止められた。
「僕たちはタルキに行きたいんだ。ここを通してくれないか?」
すると兵士が数人集まってくる。
「は?何言ってる?ここは前線基地なんだぞボウズ。」
「そんなこと知ってるよ。だから通してと言ってるんだ。」
「タルキへ行けば死ぬぞ。やめなさい。」
兵士たちは門を開ける気配すら見せない。
「開けてはくれないかね。タルキになんとしても行かねばならんのだ。」
グリーが後方から兵士に願い出た。兵士はグリーの顔を見ると、
「あ・あなたは・・・。ゲート製作者の・・・。」
「いかにも。グリー=ゴールニックだ。」
「なら、なおさら通すわけには行かないねぇ〜。」
その声は兵士の後ろから聞こえた。
「た・隊長!!今お戻りに?」
「ああ、たった今だけどね。で、なぜ今戦時中のタルキなんかに行こうとしているのか聞きたいねぇ。」
隊長服らしき服を着て、腕組みをしている人がそう言って兵士達の前へ出てくる。
「隊長さん、あんた名前は?」
ゴンボースがその人に尋ねる。
「そうだねぇ、ここで会えたのもなにかの縁。私は、エンルスト=アルヴァンストというものだ。」
エンルストが名乗るとニッキーが、
「エンルストさん、私たちはタルキに一刻も早く行かなければならないのです。でないと・・・。」
「何か起こるというのかね?」
そこで僕が一言、
「この世界が崩壊します。」
その言葉に兵士たちが笑いだす。完全に相手にされていない様子。
「本当です!!信じてください!!」
ナナミが訴えるが兵士たちは聞く耳を持たない。僕は、今まで内に秘めていた事を口にした。
「負の遺産の復活ですよ。あなた方はよくご存知のはずだ。負の遺産が何かということぐらい・・・。」
それに真っ先に反応したのはゴンボースだった。
「負の・・・遺産・・・だと・・・。悪夢がまた始まるのか・・・。」
「冗談も休み休みいいたまえ。それにあれの設計図はすでにこの世にない。復活など・・・。」
エンルストはそう言うが、僕はそれをくつがえす。
「あの設計図は元々ブルツーナが所有していたものです。前の大戦の際、それを処分したと発表はした。
 しかし、あれには裏があったんです。ブルツーナはひそかにその文書を残していた。抑止力の為に。
 そして、今回の戦争の前、それをタルキに気付かれてしまった。グリーさんが作ったゲートの一部にそ
 の負の遺産と呼ばれる兵器の一部分が使われていることを。焦ったブルツーナは設計図を本当に処
 分しようとした。しかし、それはいつの間にか消えていた。そう・・・情報は既にタルキの元へ届けられ
 ていた。機密情報と共にね。」
「フン、全て憶測の範囲じゃないか。一体どこにそんな記録が残っているんだね?」
「最初僕も考えられませんでしたよ。でも、こう考えざるおえない状況が起こってるんです。」
「えっ?そいつは本当なのか?」
ゴンボースが横から割って入る。
「ええ。ほら、シューレで議長と議員が死んだあの事件。あそこにいた行政省事務次官ワイバーン=ド
 レイク。あいつがなぜ議長という職についていたのか。その理由を考えるとここに行き着くんです。」
「それも憶測の範囲だな。しかし、なぜ君はそんな事まで知っているんだね?」
エンルストは僕の素性を尋ねる。僕は隠す理由も無かったので答えた。
「僕は、昔、タルキ反乱軍のリーダーをしていたルイス=マクレンガーです。」
その発言でエンルストの表情が一変した。
「ほぅ・・・。君がタルキ反乱軍のリーダーかい。確かシューレで問題を起こしてたな。」
「あれは仕方なかったんだ。これは仕組まれた戦争なんです。戦えば奴らの思う壺だ!!」
僕はそう言って銃を構えた。その銃口をエンルストに向ける。
「通して下さい。でないと撃ちます。さぁ、早く!!」
僕は勢いなど緩める気は無かった。これが一番早いと思った。急がないと世界が・・・。しかし、エンルス
トは動じずに、
「撃ちたければ撃ちたまえ。お前たち、門は開けるな。ここがどこだか分かって言ってるのか?軍事基地
 だぞ。それでも君は私を撃つかね?」
そう言われて僕は銃を下ろさずにはいられなかった。
「さて・・・君たちは軍人達にはむかった反逆罪で拘束せねばならない。おい、この者達を地下牢に閉じこ
 めろ。お手柔らかにな。」
その対応にニッキーは吠える。
「どういうつもりだ!!軍人が一番偉いってのかよ!!」
「黙ってくれるかな。私は、戦いに出ていたから疲れているのでね。頭に響くんだよ。早くしろ。」
僕達は兵士に囲まれて手錠をさせられた。身動き出来ずそのまま牢へと連れて行かれる。
「覚えとけよ!!」
ニッキーがそう吠えるがエンルストは聞く耳などもっていない。
「すまない・・・ルイス君・・・。」
グリーがそう僕につぶやく。
「グリーさんは悪くないですよ。自分を責めないで下さい。今はどうしようもないんですから。」
僕は今は従う事にした。ここで暴れればまた厄介な事になりかねない。
「おい。入れ!!」
兵士に言われて僕達は牢に入った。鍵のかかる音。兵士が立ち去る足音。その間、沈黙が続く・・・。
「こんなことになっちまうとはな・・・。」
ゴンボースが沈黙を破った。
「どうなるのかな?私達・・・。」
ナナミも心配そうにつぶやく。
「何とかなるさ。今は待つしかないよ。」
僕はそうとしか言えなかった。すると、
「きっと出れないわよ。ここはブルツーナ。タルキとは違うんですから。」
隣の牢から声が聞こえた。どうやら女の声のようだ。
「あなたは?」
僕は牢屋ごしに会話をし始めた。
「私はミュレル=ジュラート。タルキ軍の衛生兵よ。」
声の質からしてまだ年齢は若そうだ。
「なるほど。だからブルツーナの事をそういう風に言うんですね。」
「ブルツーナの何が良いっていうわけ?この国は奴隷制があるし、貧富の差が激しいし。」
「ではタルキにはそういった負の部分は存在しないと?」
「そこまでは言ってないわ。タルキにだってこの戦争を正当化して侵略戦争という事を隠そうとしてる。」
「それだけじゃないですよ。タルキには武装集団が住みやすい環境がある。」
「それはブルツーナも同じじゃない。クーデターだって現に起こったじゃない。」
「しかし、それからの治安維持はしっかりしている。失敗から学び始めたんですよ。」
「へぇ〜、やけにブルツーナびいきね。」
「いえ、僕はこの二国には未来はないと思ってますよ。今のままではね。」
「やけに情勢に詳しいのね。あなた一体誰?」
「ルイス=マクレンガー。今ブルツーナで問題を起こしていまして・・・。」
「どっかで聞いた名前ね。まぁいいわ。って問題って何やったの?」
「戦争を終わらせるよう両国に訴えに行く最中です。シューレにいって議会ともめたんですよ。」
「まぁブルツーナなら分からなくもないわね。」
その発言にゴンボースが割って入る。
「ちょっと聞きづてならねぇな。」
「あなたは?」
「ゴンボース=ルッフェレンだ。俺たちは昔ブルツーナを支えてきたモンでね。」
「だから?ブルツーナの事を悪く言うなってことかしら?」
「じゃぁタルキなら理解するって言うのかよ。」
ニッキーがミュレルにそう言い放つ。
「いえ・・・それは・・・。」
「お互いさまだよ。だから僕は未来が無いと言ってるんだ。」
僕ははっきり言った。するとミュレルは
「でもこれじゃ今の話もただの理想になってしまうわね。」
「君は望むのかい?この世界の平和を。」
グリーさんが話にはいる。少し間が空いて返答がある。
「もう戦争はこりごり・・・。私は最前線で唯一生き残ったのよ。仲間の死体だって目の前で見てる。
 平和は望んでる。でも、今の話で戦争が終わるきっかけになるとは思えないわ。」
「僕もそれは思わない。僕たちが消されて終わる。でも、僕たちはそれでもやらないと。」
「どうして?どうして命を粗末にしようとするの?死ぬと分ってて行くなんて。」
「ふつーなら考えないよな。でも俺たちはこの戦争を終わらせたい。これ以上の犠牲をださねーためにな。」
ゴンボースがそう言って僕の肩を叩く。
「なっ!ルイス!」
「そうです。僕たちは戦争をじかに経験している。仲間は数え切れないぐらい死んだ。もう・・・これ以上は。」
「あなた・・・。」
ミュレルは僕の切実な思いを理解しようとしているようだった。
「どうしてもこの世界に影を落としたくない。もう・・・暗闇の中にはいたくないんだ。」
「その為には何としてもここから出ないとな。」
僕の肩をゴンボースが叩く。僕はうなずき、そして考える。
「・・・私は・・・私はあのタルキにいる意味があるのかしら・・・。」
ミュレルはつぶやく。僕にはそれが聞こえたので、
「それは君がどうするかだよ。このまま戦争に身を預けるならそのまま衛生兵としているのが良いと思う。
 でも、もし・・・それが嫌なら君自身が正しいと思う方へ動けばいいと思う。僕にはそれしか言えない。」
「私は・・・。」
その時だった。いきなりの爆発音!!どうやら爆弾が投下されたようだ。
「タルキ軍のおでましのようだな。」
ゴンボースがそう言って外を見る。その通りだった。飛行戦艦が飛んでいるのが見えた。
「どうするよ?このままじゃこの建物ごと吹っ飛ばされちまうぜ。」
「それが奴らの狙いだろう。きっとブリグリッツァーの考える事はな。」
飛行戦艦はブリランテを総攻撃する。
「さて・・・奴は出て来るかな。」
飛行戦艦艦長のグイーツ=シャルマンが不敵な笑みを浮かべて燃え盛るブリランテを眺める。
「グイーツ様、対空砲火です!!」
「上昇して、P-66の準備。一気に叩く!」
飛行戦艦は高度を上げると小型プルトニウム爆弾P-66を投下する。爆弾は地に落ちると爆発と同時に通常
よりも激しく放熱し、周囲を溶かして放射能を撒き散らす。
「ちっ、敵の方が一枚上手とはねぇ・・・。」
エンルストはすぐさま退却命令を下すとルイス達のいる牢へと走る。
「これは・・・いままでのと種類が違うぞ・・・。」
牢の中から外を見て爆弾の威力の違いにニッキーが気付く。
「実戦に投入してきたな。」
僕は何となくだがそんな予感がした。
「君たち!!」
その時、エンルストが走ってくるのが見えた。そして飛行戦艦の姿も・・・。
「エンルストさん!!」
エンルストは振り返る。その瞬間、300メートルほど先で爆弾が爆発し、爆風がエンルストを襲う!!
「ぐわっ!!」
幸いなことに飛行戦艦がエンルストの後ろに墜落し、直接の被害は免れたもののその場に倒れてしまう。
「エンルストさん!!」
「おい!!ここから出れるぞ!!」
爆撃の影響で牢が壊れ、すきまから外へと出れた。すぐさま僕はエンルストのところへ行く。
「まだ息がある!!どこかに乗り物は!?」
すると目の前にジープが止まる。
「乗って!!早く!!」
ジープを運転してきたのはミュレルだった。
「あ、うん!!」
僕は、エンルストをジープに乗せ、他のみんなを誘導した。みんながジープに乗った所でジープが走りだす。
「急いで!!狙いは僕だ!!」
ジープはブリランテを離れ、タルキ方面へ。しかし、しっかりと跡をつけられていた。
「グイーツ様。居ました。」
「破壊しろ。」
飛行戦艦はジープを追う。勝ち目などないのは分かっていた。しかし、みんなに危害を加えて欲しくない。
僕はそう思い続けていた。
「ねぇ!!聞いてる!?どうすればいいの!?」
ミュレルが運転しながら僕に尋ねる。僕はミュレルに、
「みんなをよろしくね。」
そういってジープから地上へと降りる。地面の上の転がりつつもジープが走り去っていくのを見ていた。
「さて、これからどうしようかな・・・。」
飛行戦艦を前にして僕は考えていた。
「久しぶりだな。ルイス=マクレンガー。」
「やはり君だったか、グイーツ。」
「君は我々にとって邪魔な存在だ。消えてもらうよ。」
「どうして・・・そうも戦争を望む?」
「望む?バカバカしい。望まなくてもこれは運命なのだよ。我々戦士にとっての運命なんだよ!!」
「運命なんて・・・変えてやる!!」
「今のこの状況からどうやって?笑わせてくれるなぁ〜。この世界はもはや終わり。新たな世界をこれから
 築くのさ。もっと世界が平等にあるようにね。」
「所詮は共産・社会主義のくだらん理想さ。どうやって人の欲求を抑えるつもりだ?力はさらに強い力を望む。
 結局はこれの繰り返しだ。」
「我々はそれを望んでる。同じことの繰り返し。人は常に同じ歴史を繰り返す。そうだろ?」
「貴族の名の下に貴族を討つとはこの事か。貴族政治も所詮は繰り返し。」
「その通り。ようやく理解したようだな。さて・・・お遊びもおしまい。さらばだ。元同志よ。」
飛行戦艦がゆっくりと高度を上げ、照準を合わせる。僕はもう・・・。
「ではやるぞ。発・・・。」
「グイーツ様!!前方から先ほどのジープです!!」
「知るか!!撃て!!」
飛行戦艦の100mm双射砲が僕めがけて発射された。僕はとっさに避け、飛行戦艦の真下まで走る。
「着地!!潰してしまえ!!」
飛行戦艦はゆっくり降下する。僕は必死で逃げる。その時さっきのジープが後ろから近づいてくるのに気付く。
「ルイス!!」
その声はミュレルだった。僕はとっさに手を出す!!
「ミュレル!!ここだ!!」
飛行戦艦の下、僕はミュレルの手をとりジープに乗った。
「しっかり捕まってて!!」
ミュレルは一気に加速させる。ジープは飛行戦艦の下からなんとか抜け出せた。
「グイーツ様!!逃げられます!!」
「フン・・・運のいい奴め。まぁいい、ほっておけ。次の機会で間に合う。ブリランテの占拠に向かうぞ。」
飛行戦艦は反転し、ブリランテを目指す。
「あれ?反転?」
僕はその時頭を殴られるなんて思ってもみなかった。ミュレルの方を向いたら頭に一発やられた。
「バカよあんた。ほんとにバカね。」
「いてて・・・バカバカ言うな。」
二人を乗せたジープは仲間の所へと向かう。そう・・・これが二人の宿命的な出逢いだった。




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