第九章
<K.G 作>
〜もう一つの戦い〜
私はぼんやりと目を覚ました・・・。そこには壮大な草原が広がっていた。私はなぜか倒れていたので
ある。起き上がると同時に私はここにいる理由を記憶の中から探り出す。そして、ある一つの答えにた
どりつく。だがそれに気付いた時には遠くで銃撃戦の音が聞こえる。そう・・・。ここは戦場・・・。
私は、運がいいのか悪いのかここで倒れて部隊の他のメンバーとはぐれていた。私の肩には十字のマー
クが付けられていた。私は衛生兵である事を思い出す。急いで銃撃戦の現場へと走り出した。傷を負っ
ている人が大勢いるはずだと思いながら・・・。
そもそも戦争の発端は私の国の経済にあった。不況に続く不況によって立て直しが出来なくなった。そ
れもそのはず、私の国は世界から抹殺されるはずだった社会主義の国家。世界がこうなる事を予測して
いたから変える必要があったのである。にもかかわらず私の国はこの主義の貫き通し、その上打開策と
して軍隊を再編成し、隣国の領地侵略を開始したのである。この無謀ともいえる戦争は、半年あれば終
結するものと思いきや長期に渡って続き国民皆兵令までしかれ女子供も戦争という惨禍にみまわれる事
となってしまった。私はまだ17歳。両親も戦争へ出て行き、一人身となった所へ衛生兵としての徴兵
が下った。私は従うしかなかった。そして最前線の部隊の中にいた。ついさっきまで・・・。
私が現場に着くとそこには異臭が立ち込めていた。人の死の臭いなのだろうか?その先では白い霧のよ
うな粉が風で舞っていた。そう・・・。人の骨が風化して舞っていたのだ。私はずっと気絶していたの
だろうか?全く分からない。ただ言えるのは・・・壊滅・・・その一言だった。私は、恐ろしさのあま
りその場にへたれこんでしまった。私のいた部隊は女が三分の二。しかもまだ20にもなっていない人
ばかりだった。まだ死んですぐの人の顔を見た。その人は私の部隊で笑顔を絶やすことのない明るい人
だった。だが、その顔にやすらぎや笑った表情などは存在しない。私はこんな時にと思ったが仲間が所
持していた武器や弾薬を取り出し持てれるだけ持った。ここでは何も通用しない・・・。生きるか死ぬ
か・・・。この瀬戸際にきていた。私がそれらを持って立ちあがろうとした瞬間!!
「動くな!!」
背中からそう言われてビクッときた私は腕に抱えていた銃を地面に落とす。銃声・・・!!私は肩を撃
ち抜かれその場に気絶した。死ぬのかと心に決めた。
次に目を覚ますとそこはベッドの上だった。どこかの施設のようだ。上から光が差しこんで来る。と同
時に肩に激痛が走った。
「痛ッ!!」
「おっ、目を覚ました!!大丈夫か?」
一人の男が私を覗き込んでくる。その人は私と同じ軍服を着ていた。私は激痛をこらえながらも起き上
がり、辺りを見回した。負傷している人も含めてこの部屋に10人ほどいた。
「ここは一体?」
私は私のそばに座っていた兵士に尋ねた。
「ここは前線基地です。といっても数少ない内の一つですけどね。」
「えっ?数少ないって・・・?」
「あなたが寝ていた間にブルツーナの軍隊が大規模な基地殲滅作戦みたいなのをやったらしくて主要な
基地はことごとく潰されましたよ。あなたの部隊が駐留していた基地は一番にやられてしまって・・
・。あなたが唯一の生き残りなんですよ。その基地にいた人の中で・・・。」
「私がたった一人の生き残り・・・。」
「ええ。あなたが声を出していなかったら今ごろはどうなっていたか・・・。」
私はどうやら無意識の内に声を出して助けを呼んでいたようだ。それが後方にいた部隊に伝わったみた
いでその人達によって今こうして生きているわけである。
「で、何があった?衛生兵。」
曹長位の男が私に状況を尋ねた。
「私が現場に到着した時にはもう・・・。」
「お前さんだけ別行動をとってたのか?」
「いえ・・・。その・・・。目が覚めたら隊の姿はなく銃声がしたのでその方向へ行ってみたら、そこ
に・・・。」
「そうすると妙だな。お前さんが寝ていたって事なのか?」
「その前の記憶が一切なくて・・・。その前の夜に寝たのは覚えているんです。でもそこからが全く・・・。」
「まぁ、ここは戦場だ。そういった事も珍しくはない。お前さんが言う事は信じるよ。九瀬二等兵。」
「はい、何でしょうか?」
私のそばにいた男が返事をする。
「その衛生兵に何か食べさせてやれ。といっても大した食糧もないがな。」
「はい、了解しました。」
九瀬は、食糧を取りに部屋を出て行く。すると曹長は私の所にやって来て小声で
「ここだけの話だがな衛生兵。どうやらブルツーナのスパイがこの中にいるようなんだ。」
「ス・スパイですか?」
「ああ。お前さんの部隊の情報もそのスパイによって漏れたみたいだ。」
「そのスパイは一人なんですか?」
「いや、どうやら三人いるようだ。ここにいるのは全部で三十五人。選び抜くのは至難だ。だからお前
さんにも協力して欲しい。」
「でもどうすれば・・・。」
「簡単な話だ。お前さんはただ普通に接していればいい。出来るだけ沢山の人間と接するようにな。」
「それで大丈夫なんですか?」
「なんとかなる。頼んだぞ。」
曹長が話し終わった時に九瀬が粥を持ってやって来た。
「話は済みましたか?」
「ああ、もういい。おいおい、もう少しマシな飯はないのか?」
「これが精一杯ですよ。あっ、少尉殿が曹長殿を呼んでおられました。衛生兵にも話を聞きたいみたい
です。」
「分かった。すまんが粥は後にしてくれ。九瀬、そいつを冷ますんじゃないぞ。」
「はい。分かってます。」
私はゆっくりとベッドから立ち上がった。
「大丈夫かね?」
「はい、なんとか・・・。」
私は何とか歩けるまでには回復していた。私達は少尉がいる部屋に入る。少尉は椅子から立ち上がり
「本当にあなたは運が良かったですな。で、すまないがその時の状況を詳しく知りたいんだがね。」
「私は居合わせてよろしいんでしょうか?」
曹長は少尉に尋ねた。
「構わんよ。君には色々な意味で助けてもらっているからね。」
「その・・・。スパイがどうのとかっていう話は・・・本当なんですか?」
「残念だが・・・。」
私はそのスパイ達が許せなかった。私は知っている事を全て話した。
「私は意識をとり戻した時銃撃戦が聞こえました。私は衛生兵なので急いでその現場に向かいました。
そこには霧のようなものがかかっていて私はどの方角に歩いているのか分からなかったんです。少し
歩くともやが晴れて目の前に残酷な光景が浮かび上がって来たんです。その時にその霧は人の骨が風
化し飛んでいたものだと初めて気付きました。使える武器を拾った後に撃たれて私はまた・・・。」
「無惨な光景だな・・・。確かにそこでは多くの人が死んでいる。そういった光景にも遭うかもしれん
な・・・。」
「全然役に立たないですね・・・。すみません。」
「いやいや、随分と役に立ちました。これからあの辺りを爆撃でもすれば・・・。」
だが、そんな計画は実行には移せない。なぜなら・・・。
「曹長!!敵襲です!!戦車まであります!!」
九瀬の声が聞こえた。そのすぐ後に爆発音と銃声音!!戦闘が再び始まった。
「曹長!私も参加します。」
私は銃撃戦が繰り広げられている場へ行こうとする。
「待て!!君は行くな!!この裏に脱出口がある。そこにバイクが止めてある。それに乗ってここから
離れろ!!君には生きてもらわないと困る。我々が正しかったという事を伝えてくれ!!」
私は少尉の言った事に納得して脱出口から出て行こうとした。するとまたも少尉が
「君の名前を聞いていなかったな。冥土の土産に教えてくれ。」
「少尉!!早く!!」
九瀬の声が聞こえた。
「早く!!言ってくれ!!」
私ははっきりした声を出して答えた
「ミュレル=ジュラートよ。それに冥土の土産なんて言わないで下さい。」
「ミュレルさん。生きてくれ。我々の分まで頼んだぞ!!」
私は少尉に背中を押されて脱出口から外へ出た。私は止めてあったバイクに乗って基地から離れる。少
し離れた時基地が爆発した。
「少尉・・・。」
この先は私の未知の土地。私はどちらに向かっているのかも分からなかった。
「とにかく近くに森があるみたいね。」
私は独り言を言いつつ森に入って行く。道はずれにバイクを止めて森の木の裏から林道を見る。すると
もうさっき戦っていたと思われる部隊が林道を通っていく。もう負けは決定的となったのである。
「気をつけろ。ここはまだ敵の勢力内だ。」
隊長らしき人が部隊にそう伝えながら林道を歩いていた。私はもう力が抜けていた。へなへなになって
木にもたれかかり私は気絶するように眠っていた・・・。