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NaughtⅢ 冥都

<K.G 作>




「さて・・・。」
悠は、宮鈴の方を見て、
「俺を案内してくれよ。その為にここにきたんだろ?」
「全て・・・お見通し・・・。」
宮鈴は手を開いて空にかざした。すると手から謎の結界らしきものが現れた。手を中心にして、円状に衝撃波のようでいて淀んだ波をうつ結界のようなもの。それが宮鈴の手から生まれた。
「ほんとに・・・行く?」
なぜかそんなことを宮鈴は聞いてきた。
「その為にこいつやお前が俺のところへ来たんだろ。今更何をためらってやがる。」
悠は先の男に殺された少女と宮鈴を見て、そう言い放った。
「そう・・・ね・・・。では・・・参りましょう・・・霊が惑いし果ての世界へ・・・。」
宮鈴はその結界らしきものを強く大きくさせて、人が通れるサイズにまで押し広げた。そしてもう片方の手は悠の手を握り、
「離さないで。」
そう言って引っ張りながら、その結界の中へと連れて行く。悠は言われるがまま、されるがままその中へ入っていった。


神風靖実(かみかぜやすみ)はその日、悠が帰ってくるのを悠の家で待っていた。彼女は合鍵を持っていてそれを使って中に入り、食事の準備をしていた。今日はライブには行かなかった。彼女は最後の賭けだと思っていた。これでダメならもう二人の関係は終わると・・・。それは悠の女性関係にあった。彼はかなりモテる。だからかは分からないが、彼は女性関係には甘い。だからすごく不安と嫉妬にかられてしまうのだ。その関係を1年間続けてきた彼女はそれにどこかで区切りをつけたかった。

「さてと・・・。」
彼女は時計を見る。もしすぐにまっすぐならそろそろ帰ってくる時間だ。メールも送っておいた。だからきっと帰ってくるはずだ。だが、これまでのことを考えると、帰ってきたためしはない。一度も早くは帰ってきたことはない。それは彼女も彼を好きになった時から覚悟はしていた。ところが、彼女の想像をはるかに超えるほどの二人の距離はかけ離れたものだった。連絡もよこさない、待ち合わせをすっぽかされる、彼女がいるときに女を部屋にあげるなど様々な出来事があった。しかし、それでも彼女はあきらめきれず悠との関係を続けている。それで彼女は幸せなのだ。

「やっぱ・・・ダメか・・・。」
半ばあきらめに近い感情で待つ。やはり結果はいつものごとくになりそうな感じだ。そして帰ってくると予定した時間から30分以上が経過していた。
「はぁ・・・。」
靖実はあきらめて食事を食べようとはしを手に持った。その瞬間にインターホンがすべての絶望感を打ち消す希望の鐘のように部屋に鳴り響く。
「帰ってきた!!」
靖実の表情は今までのそれとは大きく異なり、これまでに見たことのない笑顔をしていた。感激もしていた。彼が帰ってきた。彼女はそれで頭が一杯だった。急いで玄関まで走る。
「おかえり!!」
そう言って誰とも確認せずに家の扉を開けた。
「はじめまして〜。神風靖実さんですよね〜?」
靖実の前に現れたのは悠ではなく、靖実よりも少し背の低い少女だった。そして少女の格好は神社の巫女を連想させる。
「あ・あなた・・・誰?」
靖実はその少女に問いかけた。少女は笑顔で、
「あのね、一つお話しなきゃいけないことがあるの。」
と靖実の問いには答えずに、そう言った。
「話さないといけないこと?」
「そう、これはあなたにも関係ある話だから。」
少女はその顔を笑顔から真剣な眼差しに変え、靖実の目を見た。少女の目はすごく澄んでいて、吸い込まれそうなほどだった。思わず、きれいと言ってしまいそうなほどに。
「あなたの彼氏さんは・・・。」
その話が出た瞬間に靖実は今まで以上に真剣になって聞いていた。何をこの少女は知っているのか。少女の話の続きを早く知りたかった。
「待ってください。この話は後にしましょう。どうやら早くも嗅ぎつけられたようですから。」
そう言って少女は部屋の中に入ると、ドアのところにお札のようなものを貼り付ける。
「それは・・・。」
「障壁結界です。これで少しは時間が稼げるはずです。」
少女はそれをもう一度確認すると、部屋の奥へ入り、ベランダへと通じるガラスのドアにも同じものを貼り付ける。
「何でこんなことを・・・。」
その問いに答えようとする前に少女はさらに厳しい顔をして、
「来ます!!」
と言う。その瞬間部屋の空気が変わった。

息苦しくなる。言葉を発するのもつらい・・・。ノドに空気が絡みつき、ノドの動きになぜか意識が向いてしまうぐらいだ。ドライアイスのような白いもやが部屋を包んだ感覚に囚われる。寒いの一言では片付けられない悪寒、身体の体温が全て奪われていくような感触。そしてなぜか恐ろしさも感じ始めていた。

家のドアに何かがぶつかる音で我に返る。その音は徐々に大きさを増していき、それと同時に障壁結界と呼ばれたお札から少し電気のような結界の力が発生していた。
「与一の弓。」
少女はそう言うと、どこからともなく弓矢が現れた。何の変哲もないただの弓矢。しかし、靖実にはその弓矢はただの弓矢には見えなかった。
「ここはサチが低いから威力は弱いかもしれないけど・・・。それでも・・・。」
少女が弓を構えた瞬間、お札は剥がれ、ドアは破壊された。そして、いきなり少女に向かって光線らしきものが飛んできた。少女はすぐに身をひるがえして避ける。しかし、肩をかすめて、血が飛び散る。
「うっ・・・。」
少女は弓を落としてしまう。
「大丈夫!?」
靖実は少女に近づこうとするが、
「きちゃだめ!!次は外してこないから。」
少女は靖実を近づけないように制止させた。そしてその行動に、
「さすがだな。わざと外したことまでお見通しとは。」
ドアは廊下にひしゃげた形で転がっていた。それを軽く蹴飛ばしてくる。
「避けて!!」
とっさに声。靖実は少女がいる方と逆の方へ飛んだ。ドアとは言えない鉄の塊は、ベランダ前のガラスが割れ、鉄くずはそこへ落ちた。当然お札は破けてしまう。
「さて、これで結界の効果はなくなった。どうするよ?巫女さんよ〜。」
靖実は目を開けた。そこには少女ともう一人・・・。どうやら男のようだ。漆黒の衣装を身にまとい、背中にボーガンらしき武器を背負っている。ここからでは少し距離がある上に少し頭がクラクラしていて分からない。
「あなたの・・・あなたたちの好きにはさせない・・・。」
少女は見下ろされながらも屈服せずにそう言い放った。しかし、こういう状況に慣れていない靖実でもそれはハッタリの域を出ないことは分かってしまうぐらい不利だった。先ほど構えていた弓は男の後ろに落ちている。
「ふ〜ん、まだそれでも戦う気なんだね。嬉しいよ。僕を楽しませてくれてさ。」
男はそう言って、少女の腕に足を乗せる。そしてそこに体重をかけ始めた。
「い・いたい・・・。いたいよ・・・。」
「腕が片方でも折れれば与一とかいう弓は使えないもんな〜。僕の片手で打てるのと違ってさ。」
楽しんでいた。それは人が壊れていく様を楽しんでいた。人の形をした人じゃないモノがそこにいた。ほどなくして骨の軋む音と、砕ける音が続けさまに聞こえる。
「いいねぇ〜ほんとこの音はいつ聞いてもさ。」
男は笑いながら、後ろにあった弓を足で踏み潰した。
「おっと、ごめんねぇ、踏んじゃった。あはははは!!!」
男は少女に不愉快な笑みを浮かべた後、靖実の方に顔を向けた。そこにあるのはいたって普通の人間の顔だ。しかし、その行いは人間ではない。その顔が少しづつ近づいてくる。近づきながら彼は話し始めた。
「この世界はね、欲望に満ちている。君の彼氏もそんな欲望に身を委ねた。だから、僕達の仲間になったんだよ。」
衝撃の事実を突きつけられた。目の前の恐怖するモノの仲間になっているという事実。そしてそれを仲間の連中から言われる。彼女は絶望的な思いで心が壊れそうだった。
「僕は君を彼氏のもとに連れていく案内人なんだよ。だから一緒に行こう。」
手を差し出してくる。なぜ私は選ばれた。そんな疑問が一瞬よぎるがそれよりも行かなければ殺されるのは何となく感じていた。だから手を差し出す。その時、力を振り絞ってか少女が話しだす。
「ダメ・・・です・・・。行ったら・・・あなたの・・・心も・・・身体も・・・なくなってしまうんですよ・・・。」
「ほ〜まだ話せる元気があったんだ。」
男はジャンプして先ほど折った少女の腕に着地する。また違う場所が砕けた音がした。今度は細かい破片が潰れる音も混じっている。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「そうそう、そう言ってたほうがよっぽどいいよ。」
男はそれを楽しみながらもう一度靖実のところへ戻る。
「さぁ、今度こそ行こうか。」
靖実は分かっていても今ここで死にたくなかった。だから従うしかなかった。
「立てそうかい?」
やけに柔らかな声に変わっていた。これが誘惑なのかと思いながら靖実はゆっくり立ち上がる。
「一つお願いをしてもいいかしら?」
「ん?何だい?」
「そこの子は助けてあげて。」
靖実は無駄だとも思いつつそう言ってみた。すると、
「君の頼みだからね。いいよ。」
なぜかあっさりと聞いてくれた。靖実はなぜ自分だから言うことを聞いてくれるのかが不思議でならなかった。
「命拾いしたね。」
不機嫌な口調で男は少女に向かってそう言って、靖実に向き直る。
「それでは・・・。」
男は靖実の手をつかんでベランダまで連れて出ると手を開き、空にかざした。すると手を中心にして、円状に衝撃波のようでいて淀んだ波をうつ結界のようなものが出現した。
「行くよ。」
そしてその中に入ろうとした。しかし、そのようにならなかった。いきなり、つかまれていた感覚がなくなる。そして部屋の中で起こる大きな音。
「えっ?」
靖実はその音がする方を見た。さきほどの男が倒れている。しかもかなりの打撃を受けたようだ。少しの間起き上がってこなかった。彼が起き上がってきたのは、靖実がベランダに立っている一人の男を見た時だった。
「よぅ、久しぶりじゃぁねぇか。抗う者。」
今までとは違う口調。
「元気にしてたか?冥界の僕。」
ベランダに立っている抗う者と呼ばれた男はぶっ飛ばされて倒れた冥界の僕と呼んだ男に気さくに話しかけていた。
「あぁ、お前を殺したくてうずうずしてたんだよ!!」
冥界の僕は、倒れていた場所から走りこんで抗う者に一撃を食らわさんと拳を突き出した。しかし、抗う者は楽にかわし、冥界の僕の背中にエルボーをくらわせた。冥界の僕はベランダを越えて、下に落ちていく。
「本気でやれよ本気で。」
抗う者はそうつぶやきながら今度は少女の元へ向かう。
「おいおい、何でこんなお子ちゃまをよこしたのかね、協会の連中は・・・。」
抗う者は、少女を抱えると靖実の方を向いた。
「とりあえずここから逃げるぞ。すぐに奴が来るからな。」
靖実は今彼に従うしかなかった。そして出て行く彼に続いて行きながら、部屋を振り返って見た。全てが現実離れだった。あの日常の風景は、二人で過ごした部屋は跡形もなかった。そしてここにもう戻ってこれないことを感じていた。
「さようなら・・・悠。」
彼女は走り出す。ここで立ち止まれない。何かが動きだした。そう彼女は感じていた。
「さて、どこに行こうかね。」
抗う者は左右を見ながら、行き先を考えていた。
「あの・・・あなたの名前を・・・。」
そんな靖実の質問にも答えることなく、
「こっちに行こう。そのほうが協会にも近い。」
方向を決めて走り出す。靖実はそれについて行くしかない。それしか生きる方法がないような気がしていた。少し進むと今度は、
「川沿いを走るぞ。それが近道だ。」
何の近道か分からないが言われるままに川沿いへ出る。その時だった。後ろから光が飛んできたのは。
「ったく、追いかけるのはほんと得意だな。」
抗う者は背中に背負っていた少女を指して、
「預かってくれ、こいつんの相手は俺がする。」
「でもどうしていいのか分かりません!!」
靖実は今まであまり話を聞いてもらえなかったので強調して話してみた。すると返答があった。
「とりあえず川沿いを走れ。後で必ず追いつく。」
それだけ言って、抗う者は冥界の僕と対峙する。靖実は少女を抱えて逃げる。それを確認すると、
「さて、これで心おきなくやれるな。」
「ようやくか。楽しみだなぁ、抗う者よ。」
「いい加減その呼び方どうにかならないのか?」
「名前など知る必要などない。どうせ死ぬんだ。」
「そうだな、お前がな。」
「くっ、減らず口は嫌いだよ!!」
冥界の僕は背中に背負っていたボーガンを構え、本気で戦う気でいるようだ。
「んじゃ俺もそれに答えることにしましょう。」
抗う者は棒を出現させた。
「そんなただの棒で!!」
「まだナメてるな。ただの棒じゃないんだぜこれは!!」
冥界の僕がボーガンから先ほどの光を放つ。それを抗う者は棒ではじいた。
「なかなかにいい質の棒だな。」
「だからただの棒じゃないって言ってるだろ。」
抗う者は棒を振り回す。それを見て冥界の僕はますます面白そうにそしてバカにしたように笑った。
「ったく仕方ないな・・・。少しだけだからな。」
抗う者は棒を構えた。そして次の瞬間、走り出すと同時にその棒は姿を変える。
「形を変えようが所詮は棒だ!!」
冥界の僕は光の矢を無数に放ってきた。普通なら避けれない。しかし、抗う者に一つも当たってはいなかった。そしてその間合いは詰まっていき、
「ただの棒とナメたのがお前の運命線を決めたようだな。」
その姿は矛となって冥界の僕の身体を貫いていた。
「なっ・・・これはまさか・・・。」
「今更気付いても遅い。」
そして、その棒は鎌になり、冥界の僕の身体を切り裂いた。真っ二つに。
「これがお前らのボスに抗った者が持つ力だ。」
もうそんな話は聞こえていないだろうが、彼は崩れゆく僕に向かって答えていた。

「はぁっ、はっ、はっ、」
靖実は少女を抱えて未だ川沿いを走っていた。息が切れてきたので、少し休憩を取る。すぐ近くに大きな橋が架かっていたのでそこの真ん中まで歩くことにした。まだ後ろが追いついてくる気配はない。橋の真ん中ほどまで来ると、背中に背負っていた少女をゆっくりと降ろし、彼女は柱にもたれかかって俯き、乱れた息を整える。どこまで逃げればいいのか分からない。それ以上に何が起きているのかまるで分からない。どうしたらいいのかすらも。電灯によってライトアップされた橋が心の暗闇を照らす光のようにも見えていた。靖実は少女を見た。まだ起きる感じはしない。なぜ、こんな少女が・・・。少女を見てまず浮かんだのがその疑問だった。そしてあのお札と弓矢に冥界の僕に巫女と呼ばれていた。そして抗う者が言っていた協会という言葉。ちんぷんかんぷんだ。
「ようやく、見つけましたわ。」
色々と思いを巡らせていた時に彼女達はやってきた。
「まさか、向こうが結界を貼っているとは迂闊でしたわね。」
「あの・・・大丈夫ですかぁ・・・。」
そこら一帯から声が聞こえてきた。靖実は俯いていた顔を上げ、辺りを見渡す。するとそこには、20人は下らない数の巫女が二人から少し距離を置いた形で二人を取り囲んでいた。
「えっ・・・な・何?」
「あなた、神風靖実さんやねぇ?」
少し舞妓言葉が混じったような口調で、巫女の一人が尋ねてくる。
「そうです・・・。あのあなた達が協会の人たちなんですか?」
「あら、私らのこと知ってんでこの人。」
違う巫女が反応する。誰が話しているかは確認できない。それだけの距離と数。
「あら、抗う者が来ます。」
そして巫女がどいた先には抗う者が靖実に向かって走ってくる姿が靖実には見えていた。
「早いな、もう協会の人は来てるのか。」
「当たり前どす。味方がやられて黙ってる、そんな非情な集まりやないですから。」
「そうだったな。でも、神風靖実は俺が預かる。」
「何ゆうてんねん、横取りなんてさせへんで!!」
どれかの巫女が臨戦態勢に入った。しかし、それを別の巫女が止める。
「やめとき、戦ったって何の利点もあらしません。なら仕方ないです、その子、お預けします。やからうちの奈須を返して下さい。」
奈須と呼ばれた少女はまだ気を失ったままだったので、巫女の一人が奈須を抱えて離れていく。
「あっ、その子に伝えて。」
靖実は連れて行こうとする巫女に背中越しに、
「助けてくれて、守ってくれてありがとうって。」
自分の身を挺して彼女を守ってくれたことに彼女は深く感謝していた。しかし、今の流れに逆らって巫女の人たちについていくことはできない。抗う者がここにいるということは、冥界の僕は彼に倒されたのだろう。靖実が恐怖した相手を倒すということはその強さは計り知れない。だから逆らえるわけがないと思ったからだ。
「そう伝えます。」
そう言って巫女は暗闇へ消え、それと同時に他の巫女も姿が消えていた。
「さて・・・。まずは色々と説明が必要だろう。ここではまた狙われるかもしれない。これが案内するから家まで来てもらいたい。」
今の言葉に彼女は不自然な部分を感じた。さらっと言ったようだが、明らかに不自然だ。
「これが案内って・・・。」
「あっ、今話してるのは私の分身みたいなものだよ。とりあえずそんな話も含めて話がしたい。来てくれるかな?」
「行くしか・・・ないんでしょ・・・。それにあんなことがあって一人で家になんて帰れないわよ・・・今更。」
「ではついてきてくれ。」
靖実はその抗う者の分身の後について行くのだった。


結界の闇から解放されて、悠は、空が黄土色で覆われた地に降り立った。
「ここか・・・冥界とやらは。」
後ろにいた宮鈴がそれに答えて、
「そう・・・そしてここが冥都ベリザレク・・・。私達の・・・故郷・・・。」
「故郷・・・ね。あんまり好きになれそうにないな・・・。」
新しい運命が動き出す・・・。それはこれから起きることのほんの始まりに過ぎない・・・。

見えない運命がつながり始めた―――――

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