第十章
<K.G 作>
〜見放された二国〜
グリーがゲートを手に入れに出てすでに三時間が経過していた。
「しかし、敵はいつ仕掛けてくる?」
そう、今仕掛けられれば確実にここは敵の手に落ちる。
「それはこっちにとっては都合がいい事だからよ、気にする前にこっちの兵力考えないといけねぇな。
なにせ先の戦闘でどれほどの戦力が奪われたかなんてわかりゃしないしな。」
ゴンボースはそう言って動ける兵士を集めた。現れたのは数えるほど・・・。
「誰か他に動ける奴はいないのか?」
ゴンボースは一人の兵士に尋ねる。
「だめだ。これ以上は誰も・・・。」
無念そうに兵士は言った。ゴンボースは黙ってしまう。これだけで本当にこの町を救えるのだろうかと
誰もが思う。この現実はどうしようもない。
「とにかく、この人達だけでも戦ってくれると言ってくれているんだ。それだけでも感謝すべきだよ。
ニッキー、残りの火器はどれくらいある?」
ニッキーは急いで残りを調べる。その間にゴンボースが僕に言ってきた。
「あんたはタルキへ行ってくれ。俺達は俺達だけでここを守る。だから頼む。タルキへ行ってくれ!」
「ゴンボースさん、そんな事はできません。僕はこのぺスカで出来るだけの事をしたいんです。それに
彼女・・・べシュリナも僕にそう願っていると思うんです。ここを守ってくれって・・・。」
「しかし、それじゃあんたもここで・・・。」
そんなゴンボースに僕は
「ゴンボースさんらしくないですよ。僕の事は気にしなくても結構ですからぺスカを救う事だけを考え
ましょう。それに僕はまだやりたい事が沢山あるんです。何としても生きてそれをやってみたいんで
すよ。だからゴンボースさんも希望を持って下さい。」
僕の発言にゴンボースは笑い出した。
「確かにその通りだな!!俺だってやりたい事はいっぱいある。希望か・・・。いい言葉だな。もう何
十年も聞いてないなそんな言葉なんてよ。よっしゃ!!気合が入ってきたぜ!!」
僕はゴンボースの元気に勇気付けられた。希望が本当に現実になる。そんな気がした。
―世界統一機構会議―
ここは世界統一機構というこの世界すべての国が所属している国際機関である。そして唯一絶対の権利
を持っていた。今まで様々な国際機関が存在していたが、これほど統一された機構は過去において存在
していない。そしてここでタルキとブルツーナに関しての協議が行われていた。
「この二国は自らの利益の為に戦争をはじめている。ブルツーナには貴族市なるものがあり、奴隷を支
配して議会にもかなりの発言力を持っている。一方タルキは共産の考え方をいっこうに変えようとせ
ず、その上独裁に近い状態になっているではないか!!この二国はすでに我ら統一機構を侮辱する行
為にほかならない!!私はすぐにこの国に対して離縁措置をとるべきだと思うがね。」
「しかし、そうなって逆に我らを攻撃目標にされたらどうするつもりだね!?」
「そうなった時はこちらにも軍隊がある。それで押さえつければいい。」
「それでは先の大戦と何ら変わりがないではないか!!」
「しかし、自国を守る措置としてはそれしか手がない。それとも他に手がおありかな?」
「・・・。」
「本議長、ここは彼らに一度制裁を与えてみてはどうかと思いますが。」
「本議長、それは先の大戦で引き起こした要因とほぼ類似しています。危険過ぎます!!」
必死で意見を発言する議員達。議長はどういった決断を下すのか?
「ここまで賛否両論がでるのならこの場で多数決といこう。全員に紙を配ってくれ。」
議長もこれ以外に方法が無かったと思われる。議員全員に紙がわたった。
「では、そこに今回の離縁措置に賛成か反対かを書いてくれ。」
こうして多数決という何処にでも出来て一番公平な方法と取った。全ての票が本議長のもとへ集められ
る。本議長はそれを丁寧に数え始めた。この議長は自分がやらないと納得がいかない人なのだ。
「さて、今回の決議案は・・・。」
議員全員に緊張が走った。議長は口を開く。
「可決!!」
その瞬間、歓喜と怒りが入り混じって会議場は大騒ぎになった。
「よってブルツーナ、タルキ両国に対し離縁措置を取る事が決定した。」
わずかな差だった。ほんのわずかの差で可決になった。
「何て事だ!!これでは過去の大戦の二の舞を演じてしまう!!」
反対議員は口々にこう言った。この通達はすぐに両国に送られた。無責任な傍観世界と化してしまった
のである。
「我々は戦争に一切干渉しないだって!?」
ニッキーは驚きの声を上げた。僕は黙って何も言えない。本当に予想外の展開だったからだ。
(これじゃ前の時と同じじゃないか。何で同じ過ちを繰り返す?確かにこの二国は自己利益の為に動い
ている。しかし、それを止める為にあの機関を作ったんじゃないのか?これじゃ役に立たない!!)
―タルキ国官邸―
「まさか予想通りの事態になるとはな。君の考えは大したものだよ。」
タルキの代表者とその幹部がこの決定について話をしていた。
「いえ、まだ始まりに過ぎません。これからが予定通りでなくてはここまで戦争を長引かせた意味がな
いですからな。」
「君はどこまで考えているのだね?この戦争の先に何が待っている?」
「ここで言ってしまっては楽しみが無くなる。もう少し世界を動きを観察していて下さい。」
「ほほぅ、それは楽しみだな。期待しているよ。そういや君が前々から世界よりも脅威といっている男
の事だが、どうやらブルツーナのぺスカにいるらしい。ぺスカなら一日で落とせるがその男はどうし
たらいいのだ?」
「ぺスカに今の倍の兵を派遣して下さい。奴はそれでも油断ならない相手だ。」
「倍だと!?どこにそんな戦力がどこに残っていると思っている!?今持ち場を離れたらブルツーナに
やられてしまうわ!!」
「確かぺスカにはかなりの戦力を差し向けたといっておられたが、私が行った最近の調査では戦力が6
0%もダウンしているとの事。本当にこの戦力でぺスカを落とせるとお考えですか?まして向こうに
はあの男がいる。あの男によって60%中の大半の戦力が削がれたと考えても過信ではないと思われ
ますがね。」
「むぅぅぅ、分かった。今の倍の戦力を本土から派遣しよう。それまで待機命令を出しておけ。」
「かしこまりました。」
「そういえばそちらに任せたグリー暗殺はまだ実行しておらんのか?」
「少々てこずっております。ブルツーナに潜入させた部下がやられまして、計画が滞っている状態でし
て、今グリーの居場所を確認しておる最中で。」
「言い訳は聞かん。とりあえず早めに決着をつけてくれ。」
「分かっております。早急に決着を。」
「頼むぞ。あやつはブルツーナの一番の厄介者だ。」
代表者はそう言い放つと自室へと戻った。
「報告しろ。」
残った幹部が部下にそう言った。
「はっ、グリーはどうやら貴族市に戻ったようです。何かしでかす気かもしれません。」
「情報はそれだけか?」
「なにぶん戦乱の中という事もありまして正確な情報が伝わりにくいので。」
「次の情報に期待するとしよう。生かしておけ。殺しはするな。」
なぜかそう伝える幹部。裏に隠された意図が見え始めた。
―ブルツーナ召集会議―
「今回は緊急会議という事で集まってもらった。この前の議員の潜入問題といい、今回の宣告といい、
国民は不満がたまっている。何とかこれを和らげる方法はないだろうか?」
「あんた達がやめるべきだ。それが一番いい。」
そんな声がした瞬間その発言をした議員は首を絞められた。
「さて、うるさいのがいなくなったところでどうする?」
「国民の目をそらしましょう。ぺスカを敵に占領させれば国民はタルキにその視線がいく。これを利用
する手はないでしょう。」
「だが、あの男が黙ってはいないぞ。今度は我々を狙うやもしれん。」
「貴族の分際で・・・!!あいつを始末すれば事は上手く運ぶ。グリーを殺せ。」
「それしか今の現状を打破する手立てはないようですな。ではそのように。」
結局ブルツーナ国内でもグリーは邪魔者扱いを受けてしまった。
―貴族市―
グリーは久々び帰ってきた。家に着くとナナミが出迎える。
「どうしたの?ぺスカはどうなってるのよ!?」
「ナナミ、私はゲートをぺスカに持って行く為に帰って来た。またすぐ行かなきゃならない。また待っ
ていてくれるね?」
「・・・うん・・・。待つよ。ナナミはお父さんやルイス君が帰って来るのをずっと待ってるよ。だか
らぺスカの人達を助けてあげて。ね?お父さん。」
「ああ、分かった。必ず助けるよ。だからいい子で待っていてくれ。」
そう言い残してグリーは家を出ようとした。しかし、グリーは何かを感じた。足を止め、ナナミに小声
でしゃべる。
「ナナミ、裏口から外へ出てくれ。早く!!」
「う・うん。分かった。」
ナナミは裏口へ走る。しかし、裏口に人の影が映った。ナナミは恐怖に怯えて動けなくなってしまう。
「お父さん・・・。ダメ・・・。こっちも・・・ダメ・・・。」
その瞬間一気に兵士が家へ流れ込むように入って来た!!
「ナナミ!!!!!!!」
「お父さん!!!!」
グリーは兵士に捕まり、顔面に銃口を向けられる。
「さて、最後に言い残す事はあるか?」
兵士のひとりがグリーに尋ねた。グリーは黙ったまま何も言わない。
「無いのか。娘に残す言葉も無いとはな。では死ね。」
リーダー格の男がこう言い放って、兵士に合図を出した。兵士はグリーのこめかみに銃をつきつける。
グリーは目をつぶり、ナナミは泣くしかなかった。だがその時思いもよらぬ事態が発生した。何とグリ
ーに銃をつきつけていた兵士の頭が吹っ飛んだのである!!何が起こったか分からないグリーはナナミ
をこのスキにとりあえず連れ出してゲートが乗ってあるトラックに乗った。すると貴族市の住民がやっ
て来た。グリーは
「何をしている!?急いで逃げるんだ!!」
「グリーさん。早くぺスカへ向かってください。私達はここで食い止めます!!」
「しかし!!そんな事をすれば君達の命は!!」
「私達はグリーさんの考え方に賛成なんです。だから少しでもお手伝いしたいんですよ。私達なら大丈
夫ですから早く!!」
「すまない・・・みんな・・・。」
「平和な世界を作って下さい。これはみんなの願いです。」
「ああ、絶対作ってみせる!!ありがとう!!私は君達のような人々に出会えて光栄だ!!」
グリーはトラックを走らせた。住民は迫り来る兵士達と戦いはじめた。貴族市が小さくなって行く・・
・。銃声が鳴り響く故郷をあとにしてグリーはぺスカへと向かう。