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第一二章

<K.G 作>
〜最後の望み〜




丁度ペスカで戦闘が起こった時私は目を覚ました。林の中、私は差し込む日の光を手で遮りながら立ち 上がる。バイクを取りに林の中をゆっくりと歩く。木の葉が風でさわさわと揺れる。のどかな風景が頭 の中に浮かんでくる。だが、そんな気分にいつまでも浸らせてはくれない。私が今すべき事はあの基地 の状況だ。多分もう・・・。でも私は確認したかった。どんな現実が待っていようとも私は動じはしな い。私はバイクに乗って基地を見に行った。するとそこには・・・。
―前線基地―
煙が上がり基地の面影さえない所に私は立っていた。ヘルメットや銃、それに人もそこには転がってい た。再び脳裏に二文字が浮かび上がる。・・・壊滅・・・。あれから何日経っているのかさえ分からな い。だがこの場所は惨劇があった瞬間から時が止まっているようだった。そうはいっても私の時は止ま る事を許してはくれない。遠くで戦車の音がし始め、時が動いているのを実感させる。恐怖が私に押し 寄せる。私は急いでバイクに乗って基地をあとにした。バイクを走らせながら私はどうしようかと考え た。逃げ場はもうない・・・。何処へ行こうとブルツーナに見つかる。かといって林の中にい続けるわ けにはいかない。考えを巡らせながら走っていると、前方に小さな村が見えた。私は危険と思いつつそ の村へ入る。村には人の姿が見えない。通り過ぎようと思っていたのに私は、つい止まってしまった。 そしてバイクから降りて目の前に見えた民家へ向かって歩き始めた。ドアの前にたどり着いた私はゆっ くりと深呼吸してドアを叩こうと腕を伸ばす。だが、次の瞬間!!私は意識がなくなっていた・・・。
「どうする?このままブルツーナに引き渡しちまうか?」
「まぁ待て。とにかく目を覚ますのを待とうじゃないか。」
二人の男の会話。私は、意識を取り戻してはいたが起きている事がバレないように目をつぶっていた。
私をどうするのか、それに意図を探る為だ。
「だがよ、確かこの前も同じ軍の兵士を助けただろ?一体何が起こってるんだ?」
私はもう一人仲間がここにいる事を知る。
「戦争だよ。」
「そんな事は分かってるぜ。状況だよ、状況。こいつらが負けちまってるってことかい?」
「あたりめぇだろ!!だから負傷した輩が沢山ここへ流れてくるんだろ。それにこちらさんの前線基地 がやられたって話だしな。」
そこへもう一人の男がやって来た。
「とにかく、こいつらはここから追放しないとな。助けたとなると中立の立場が崩れる。」
「ったく、堅い奴だな。少しは助けてやろうっていう気はないもんかね。」
「そんな事をしてみろ、こっちだって食料は限界にきてるし、彼等の敵からしてみたら彼等に味方して いると思われて標的にされれば住民に損害が出る。それだけは避けねばならない。」
「そりゃそうだが・・・。」
「しかし、あの兵士はすごい奴だな。自力で戦火の中から脱出するなんて人間とは思えないぜ。」
「そういやあの兵士、確か名前は・・・。」
名前を言おうとしたが建物の外で何やら起こったらしく、男達は外へ出て行く。私は起きあがるとすぐ さま私から押収したと思われる銃を手に取る。どのくらい気絶していたのか、ここは何処なのかさっぱ り分からないが情報が欲しい。私は壁伝いに明かりが漏れている方へ静かにゆっくりと向かう。出口に 近づきながら銃のトリガーを引く。明かりが目前に迫った時、光は影に遮られた。
「お・おい!!」
さっきの男だ。私はとっさに銃を男に向けていた。
「早く外へ出て!!」
男は私の言う事に従った。男はその出口から外に出た。私も男に続いた。すると目の前に沢山の村人の 姿があった。中には子供の姿もある。
「何もするな。離れろ、早く離れろ!!」
男は村人にそう言ってゆっくりと歩き出す。私は銃を降ろすわけにはいかなかった。
「何が望みだ?あんたが乗ってきたバイクはそこにある。食料はこの村にはほとんどない。悪いが渡せ ない。武器か?この村は中立でな、武器もここにはないぞ。」
男は私に私が望んでいそうなものについて事細かに説明した。
「ここは何処だ?」
私はとりあえず男に場所を尋ねた。
「ここはあんたらタルキとブルツーナとの狭間にある中立の村、ノイトラールだ。」
「聞いた事が無いな。この村はなぜ中立を保つ?単に危害が加わるのを避けたい為か?そんな事をした 所でいずれはどちらかにやられるのがつねだ。」
「そんな事は充分承知の上だ。我らは戦争を止める為に中立を保っている。あんた達のように偏った考 えはしていないんだよ!!」
私は一瞬撃ち殺してやろうかと思ったが空に向かって銃を撃ち、再び男の背中につきつける。
「少し黙ってろ。危害を加えるつもりはない・・・。私は分からない・・・。なぜこんな事をしてしま ったのか・・・。なぜタルキの兵士として戦場に散って逝く仲間を見なければならない!!」
私は村人達に訴えかけた。誰にも言うことが出来なかったこの思いを・・・。すると一人の青年が私の 前に現れた。その青年は私を優しそうな目でみつめてきた。心が落ち着く感じがした。青年は私の訴え に対して答えをくれた。
「君が選択したんだよ。タルキで生きる事を。」
「えっ?」
私は何を言っていたのかさっぱり分からなかった。青年は再び言った。
「君が選んだ道だ。変えようの無い運命だよ。」
「変えようの無い運命・・・。」
「ああ。君はタルキにいる必要なんて何処にも無かった。でも、君はそれを望んだ。だから兵士になる ように言われても何も考えず、ただタルキの人々の平和の為だけに戦場へ出た。ここではそんな考え の人なんていない。村人全てが世界の平穏無事を願っている。だから中立なんだよ。タルキの考えも ブルツーナの考えもここには存在しない。だから追放しようって話をしていたんだよ。」
あの時話していた男の一人はこいつだったのかと私は今知った。
「最後の望みってやつね・・・。」
私はそう言って銃を投げ捨て、降参の姿勢をとった。村人達はそれを見届けると何事も無かったかのよ うにばらばらと散って行った。
「オレはエリス=クロフォード。よろしくな☆」
私と同じぐらいの年齢の青年が私に話し掛けてくる。私は無視した。
「つれないな〜、オレが助けたようなもんだぜ。」
「私、別に助けて欲しいなんて言ってないじゃない。」
「じゃぁ君はあのまま死んでも良かったって言うのかい?」
「なるようになるわ。」
私はそう言ってエリスを振り払った。しかし、一つ気になる事があるので振り向いて聞く。
「もう一人ここに居るって言ってたわね。何処にいるの?」
するとエリスは驚きの顔をした。
「へぇ〜、さすが軍人。仲間ならこの先の家にいるよ。」
「そう、ありがと。」
私はその家に向かって歩きだす。エリスも私に続く。
「何ついてくんのよ!!」
「オレの家だからそこ。」
エリスに言われて私は何も言えなかった。私達はエリスの家へ行く。
「おじゃまします。」
「どうぞどうぞ☆」
エリスはとっても嬉しそうだ。私は真っ先に仲間を探す。するとベッドの上に寝転がっていた。
「あの・・・。」
私はその兵士の顔を見た。するととても見覚えのある顔だった。
「く・九瀬二等兵!!」
「き・君は・・・。あの時の・・・。」
「ミュレルです。ミュレル=ジュラートですよ!!」
「衛生兵さんがどうしてここに・・・?」
「あの戦闘はどうなったんですか?」
私は九瀬の質問を押しのけてまでこれを聞きたかった。
「・・・。」
九瀬は何も言わなかった。
「どうして何も言ってくれないんですか!?」
「悲劇だよ・・・あれは・・・。」
九瀬はそれしか言ってくれなかった。私は知りたかった。どんな残酷な状況であったとしても・・・。
「ここなら安全さ。ゆっくりしていきな。」
エリスが慰めるかのようにその言葉を投げかけた。
「すまない・・・。迷惑をかけてしまったね。」
「構いませんよ。ここは中立。どちらの味方とかそんなのは関係無い。困っている人を助ける。それが ここ、ノイトラールですから。」
エリスは家の外へ出て行く。九瀬はエリスに返す言葉が見つからなかった。
「ミュレルといったな。君はどうしていたんだ?」
九瀬が私に話しかけてきた。私は事細かく今までの経路を説明した。
「わざわざ戦場に戻るなんて無茶をするんだな君は。」
「私は知りたかったんです。仲間がどうなったのか・・・。」
その時ようやく九瀬があの日の状況を語り始めた。
「あの日、君が裏口から逃げた後で戦車の総攻撃が始まって、基地は一気に崩壊したよ。ただ一つの疑 問を残してな・・・。」
「疑問?」
「ああ。実は死んだ兵士が言ってたんだが、あの総攻撃のさなかその兵士は煙の向こうにかすかにタル キの戦車を見たらしい。」
私は衝撃を受けた。タルキの戦車が見えるはずがない。その兵士の見間違いだと思った。だが九瀬の次 の言葉に私は絶句した。
「最初は見間違いだと思った。しかし、見たんだ。タルキの戦車が進軍している所を見てしまった!! ただ呆然と基地がおちていくのを見ていたよ・・・。」
私は何も言えるはずがなかった。沈黙が部屋を包み込む。少しして九瀬が切り出した。
「きっと利用するつもりだ。これはブルツーナのやった事だといって今議会で審議されている新兵器の 導入と軍事費の再拡大。そして少年・少女兵の容認を・・・。」
「まさか・・・。そんな為に最前線にいる部隊を皆殺しにするなんて・・・。」
「考えられないかもしれない。でも、そう考える以外に自国の基地を襲撃する理由が無いんだよ!!」
私は受け入れる事が出来なかった。九瀬は天井を見つめていた。そしてつぶやいた。
「ここが最後の望みかもしれないな・・・。」
私達のいき場所は現在ない・・・。ノイトラールこそまさに最後の望みなのかもしれない・・・。私も そう感じるしかなかった。
「話は済んだかい?お二人さん。」
エリスは買い物袋をさげて帰って来た。
「ええ、だいたいは。」
九瀬はそう答える。エリスは台所へ行き料理の支度を始めた。私も手伝おうと台所へ入るが、
「ミュレルさんも疲れているでしょう?休んでてください。料理はやりますから。それに久々の来客だ から張り切ってるんです。」
さっきの話を聞いていたのだろうか。エリスは急にかしこまった口調で私に話しかけてきた。
「じゃぁお言葉に甘えるわ。」
私は九瀬の横のベッドで仮眠をとることにしたがいつの間にか眠っていた。


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